山小屋「万年雪山荘」の食堂でたぬきうどんを食べることにしました。

食堂の中は意外に広くて(富士宮ルート随一らしい)、寛いでいる登山客が大勢いる奥のほうでテーブルにつき、ホッと一息。

たぬきうどん。発泡スチロールの器で、天カスとネギが乗っているだけだけど、コシのあるうどんに熱々のだしがありがたい。800円也。
小屋の奥の万年床に一人、牢名主のような強面のおっちゃんがいて、その方がこの万年雪山荘のご主人であるらしいのだが、私たちがうどんを食べ始めた頃にご主人が食堂にたむろしている登山客たちに
「掃除するからそろそろ出てってくれ!」
と怒号一声。
どうやらコーヒー1杯とかで長っ尻の登山客が追い出しをかけられた模様。
私たちには、優しいバイトの女の子が「お客さんたちはゆっくりゆっくり召し上がってくださいね~」と言ってくれ、感謝しつつ熱いうどんをすする。
そう、富士山では身体を休めるのも有料なのです!まさに「地獄の沙汰も金次第」。環境を考えたら、当たり前のことですが。
食べていると今度は山小屋の電話が鳴って、明日の天気の見込みを聞かれたりしている。
ご主人がまたもや
「そんなこと気象庁に聞けって!ゲタでも投げてみろって言え!!」 (笑)
富士山のことはなんでも答えてもらえそうな気がついしてしまうけれど、考えてみたら、たぶん山小屋にはテレビもないし電力も貴重か。女の子も、前日の落石事故の詳細を知らなかった。
それだけ極限の場所で、押し寄せる登山客のライフラインとして存在することの大変さに思いを馳せながらうどんを・・・すすりながら、ここで少し体調の低下を感じ始める私。
やはり微妙に高山病なのか、全身がだるくなってきて、さっきカレーとカレーうどんとたぬきうどんで悩んでた食欲がシュルシュル~・・・と萎えてくるかんじ。
でもここで、麺1本、天カス1粒も残すわけにはゆかぬ!と必死で完食~。
トイレを済ませ、身支度をととのえ、山小屋の人たちにお礼とお別れを告げて、覚悟を決めて強風の中へ再び出る。
約1時間の休憩で、11:17、九合目を出発、下界を目指し再び歩き始める。

こんな風景を、ぶっ飛ばされそうな強風の中、トラロープを命綱に延々と下る。
登りでは2本使っていたストックを下りでは1本にして(1本は縮めてタッチーのリュックに入れてもらい)、片手は常にトラロープ。

ここは足元がいいほうで(写真撮る余裕があるくらいで)、ほとんどが段差の高いゴツゴツ岩場、そのままドスンと降りると膝がもたないので、一段一段、ロープとストックに体重を分散させ、腕力で体重を支えながら降りる。
膝を壊したり、捻挫したり、転倒して怪我でもしたら・・・それでも自力で、自己責任で、登ったぶんは降りなければ・・という張りつめた緊張感で進み続ける。
ときどき、2mほど後ろを歩くタッチーから「焦らないで気をつけて行こう~」などと暖かい声がかけられたけれど、タッチーも、もしトロい私がコケたらどうしよう・・(背負って降りるなんてムリッ!)などと気が気じゃなかった模様。

九合目と八合目の間にある、鳥居の残骸?
ポーズをとっているのではなく、支柱があることで気が緩み、風で叩きつけられたところ。
下山中はほとんど写真撮る余裕もありませんでした。
緊張しながら全身で暴風に抗うことで身体中が疲労のピークになり、なぜか進むにつれて頭痛と吐き気がしてきて・・・どうやら日射病になりつつあったらしい。
あまりの強風に持参した帽子を被らなかったのが敗因です。
砂嵐の対策不足も大きかった。
フィット感◎のはずのスポーツサングラスが吹き飛ばされそうになり、サングラスの脇から入り込む砂塵で目は常に涙目で視界不良。
ゴーグルにマスク(あるいはバンダナ)にレインジャケットのフードをすっぽり被った熟練スタイルが羨ましかった・・。
へろへろヨレヨレになりながらも、すれ違う人とは、吐息交じりにおざなりの挨拶ではなく、しっかり声を出し、笑顔声で挨拶するようにしていました。
これってマラソンのときに学んだこと。
沿道の声援に(どんなに疲れていても)しっかりした声を出して「ありがとう!」と答えると、アラ不思議、15mくらい元気に走れちゃったりするんですよね。
富士山でもそんな空元気を燃焼させながらヨロヨロと歩いていると、ハイビジョンテレビカメラを首からぶら下げた青年が登ってきた。
テレビカメラには「日本テレビ」のステッカーが。
聞くと、翌早朝5時くらいに「Oha!4」という番組の中で、富士山の山頂から中継予定とのこと。
好き好んで来てもこんなにツラいのに、社命で・・なんてキツいだろうなあ。
「もう帰りたい」と顔に書いてあるような青年に、「この先もっと風強くて大変だけどがんばってね~明日TV見るからね~」と鬼のようなエールを送って見送る。
やがて更に巨大なカメラの三脚を担いだ青年と、巨大な寒暖計を担いだ青年ともすれ違った。
翌朝TV見たけれど(録画で)、ほんの5分くらいだったよ!
ちゃんとご来光も見られたみたいで、ボツにならなくてよかったよかった。
暴風と頭痛と吐き気と戦いながらも、マラソンのときのように、頭を空っぽにしてとにかく足を前に進め続ける。
どんなにつらくても、立ち止まっていては進まない。足を動かし続ければ、少しずつでもゴールは近づいてくるという一心で、ふらふらと進む。
段差の大きいところではムリせず、格好も気にせず岩にお尻をつけて、ずるずると這い降りる。
途中の山小屋に着いて、小屋の外のベンチに座っても、強風にもみくちゃにされて身体も神経もちっとも休まらない。
トイレの建物に入ると心底ホッとし、「ずっとココにいたい・・・」などと心のなかでつぶやく始末。
そして16:27、やっと五合目に戻ってきました!

まだこんな雲海の上なのに、ここまでは車で来られるので、ドライブデート中の軽装のカップルがいたり家族連れが写真撮ってたりして、不思議な感じ。
登り(9合目まで)4時間半かからなかったのに、下りは5時間以上かかってしまいました。
とにかく強風がつらくて、10時間のあいだ常に身体中で踏ん張りつづける疲労に打ち負かされた感じ。
レストハウスから車までのほんの7分くらいの道のりが最後までキツかったけれど、道が平らで風が穏やかなのがありがたい・・・
車に辿り着き、ばらばらになったような身体をストレッチし、砂まみれの服を脱いでゴミ袋にまとめて収納、水で顔と手足を洗い、足にエアサロンパスを吹き、意外に元気なタッチーの運転で富士山を後にしました。
私はバテバテだったけれど、頭痛薬を飲み、タッチーの許しを得て助手席で1時間ほど気絶状態で眠るとなんとか復活。
中原さん宅に寄ってミロを回収し、21時、無事、自宅に戻りました。
とにかく身体中、砂まみれで、シャワーを浴びると髪から砂がいっぱいでてタイルがじゃりじゃりになり、くまなく洗ったはずなのに、翌日になっても、耳たぶの隅から砂がでてくる始末。荷物も何もかも砂だらけで大変でした。
タッチーが持っていたデジカメ(IXY)も、下山途中でレンズ収納時に砂を噛んでしまったらしくお陀仏。デジイチ持っていかなかくてよかったね~。
最後にいくつかメモ。
・高山病対策について
①1週間前からサプリ「食べる酸素」摂取(登山中も)
②持参の水分は酸素水、こまめにたっぷり摂る
③五合目で前泊(高地順化)
④最初の1時間はことさらゆっくり行動
で二人とも高山病のひどい症状は出なかったので、効果はあったと思う。携帯酸素スプレーも持って行ったけれど効果は不明。
注意すべきなのは、アタマが痛くなっても頭痛薬は飲まないこと。高山病の重要なシグナルなので、薬で抑えて進むのは厳禁ということです。
・持参してよかったもの
スプレータイプの日焼け止め(疲労困憊していても使いやすい)
アミノバイタルプロ(行動中もパワーが出て、翌日筋肉痛なし。1~2時間おきにばんばん飲んで、下山後も摂取)
水(多めに車に積んでいき、出発前の洗顔や、下山後には顔・手・足の砂を洗い流せる)
クーラーボックスで大量の保冷剤や氷(下山後、疲れて熱をもった足や日射病でくらくらする頭を冷やした)
下山後の着替え、ビーサンなど楽な履物
そして、なによりも
「状況判断して、撤退する勇気」
これに尽きると思います。
後日調べたところでは、この日の八合目~山頂付近の風速は25m/Sくらいあった模様。
台風の暴風域が15m/s、風速25m/sだと「屋根瓦が飛ばされる、樹木が倒れる、煙突が倒れる」くらいらしい。
そしてちょうど私たちが九合目を目指していた頃(10:05)、富士山南西部に強風注意報が出てました。
某SNSの富士山関係コミュでも、悪天候のため途中で下山したという報告が非常に多く、私たちの判断は正しかったと改めて痛感しているところ。
リベンジは・・・微妙。
これから富士山にチャレンジされる方も、万全の準備と情報収集をし、悪天候の中でムリをせずに安全に楽しく登山されることを強くオススメします!!